「ワッ」
 クルクルと六尺棒が、宙に刎ね上って旋回し、夜廻りは足を空にして、丸太のようにぶっ仆れた。
 陣十郎ははじめて驚き、前へ二間ほど速《そく》に飛び、そこでヒラリと振り返って見た。
 一人の男が地に仆れてい、その傍らに一人の女が、血にぬれた匕首《あいくち》を片手に持ち、片手で衣装の裾をかかげ、月光に白々と顔を浮かせ、その顔を気味悪く微笑させ、陣十郎の方を見詰めていた。
「陣十郎さん、あぶなかったねえ」
「誰だ。……や、貴様はお妻」
「情婦《いろ》を忘れちゃ仕方がないよ」
「うむ。……しかし……どうしたんだ」
「そいつアこっちで云うことさ。……一体こいつアどうしたんだえ」
「どうしたと云って……やり損なったのよ」
「そうらしいね、そうらしいよ。……それにしてもヤキが廻ったねえ」

10[#「10」は縦中横]
「ヤキが廻ったと、莫迦を云うな、人間時々しくじることもある。……それはそうとお前はどうして?」
「ここへ来たかというのかえ。……下谷の常磐《ときわ》で待ち合わそうと、お前と約束はしたけれど、気になったので見に来ると……」
「この騒動で驚いたか」
「それで物陰にかくれていると
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