「待て」
「へい」
「何者だ」
「ごらんの通りで……お見遁しを」
「うふ、そうか、おっこち[#「おっこち」に傍点]同志か」
「へい」
「行け」
「ごめんなすって」
「これ、待て待て」
「何でございます」
「物騒な殺人者《ひとごろし》が立ち廻っているぞ。用心をして行くがいい」
「――へい、ご親切に、ありがたいことで。……」
三月が経ち初秋となった。
甲州方面から武州へ入るには、大菩薩峠を越し丹波川に添い、青梅《おうめ》から扇町谷《おおぎまちや》、高萩村《たかはぎむら》から阪戸宿《さかどじゅく》、高阪宿と辿って行くのをもって、まず順当としてよかった。
この道筋を辿りながら、一人の若い武士と一人の娘とが、旅やつれしながら歩いていた。
鴫澤主水《しぎさわもんど》と澄江《すみえ》とであった。
父の敵水品陣十郎を目つけ、討ち取って復讐しようという、敵討ちの旅なのであった。
主水と陣十郎との関係は?
従々兄弟《またいとこ》という薄いものであって、あの時からおおよそ三カ月ほど前に、飄然と鴫澤家へ訪ねて来て話を聞いて見れば、成程そんな親戚もあったと、ようやく記憶に甦えったくらいで、世話す
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