、気の毒そうに壮年武士を見た。
壮年武士の表情には、軽侮と傲慢とがあるばかりであった。
しかし娘にそう云われた時、その表情を不意に消し、
「これは恐縮に存じます。……いや私の伎倆など、まだまだやくざ[#「やくざ」に傍点]でござりまして、まさしく小父様に右の籠手《こて》を、一本取られましてござります。……将来気をつけるでござりましょう」
「さようさようそれがよろしい、将来は気をつけ天狗にならず、ますます勉強するがよい。いやお前にそう出られて、わしはすっかり嬉しくなった。……では茶でものむとしようぞ。……陣十郎《じんじゅうろう》来い、澄江来い」
好々爺の本性に帰ったらしく、こう云うと老武士は木剣を捨て、屋敷の方へ歩き出した。
「では陣十郎様、おいでなさりませ」
「は」と云ったが陣十郎様という武士は、何か心に済まないかのように、何か云い出そうとするかのように澄江の顔を凝視するばかりで、歩き出そうとはしなかった。
「澄江様。……澄江様」
「はい、何でございますか?」
「私の甲源一刀流、お父上の新影流より、劣って居るとお思い遊ばしますかな?」
「いいえ……でも……わたくしなどには……」
「
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