らしく振舞うとは」
こう老武士の窘《たしな》めるような声が、浪之助の耳へ聞こえてきたので、老武士の方へ眼を移して見た。
娘を横手へ立たせたまま、壮年武士と向かい合い、老武士は説いているのであった。
「たとえどのような伎倆《うで》があろうと、世間には名人達人がある、上越す者がどれほどでもある、増長慢になってはいけないのう」
こう云った時には老武士の声は、穏やかになり親切そうになり、顔からも怒りがなくなっていた。
「第一わしのようなこんな老人に、もろく負けるようなそんな伎倆では、自慢しようも出来ないではないか。のう澄江《すみえ》、そうであろうがな」
「まあお父様そのようなこと……もうよろしいではござりませぬか……でも陣十郎様のお伎倆《うでまえ》は、お立派のように存ぜられますわ」
藤と菖蒲《あやめ》をとりあわせた、長い袂の単衣《ひとえ》が似合って、※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《ろう》たけて[#「※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《ろう》たけて」は底本では「臈《ろう》たけて」]さえ見えるその娘は、とりなすようにそういうように云い
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