浪之助の投げた石|飛礫《つぶて》が、陣十郎の額へ来た。
「チェーッ」
 片手で払い落とした隙を、ドッとあて[#「あて」に傍点]た躰《たい》にあたり[#「あたり」に傍点]!
 要介の精妙の躰あたりを食らい、もんどり[#「もんどり」に傍点]打って二間の彼方《かなた》へ、毬のように飛ばされた陣十郎! とはいえ彼も鍛えた躰だ、飛燕の軽さ飛び起きるや、這い廻っている主水の傍を、矢のように駈け抜けて一散に脱兎!
「待て!」と要介は追っかけたが、
「浪之助殿、貴殿は居残り、主水殿と澄江殿を介抱なされい!」
「かしこまりました」
「頼む」と云いすて、要介は韋駄天追っかけたが、この辺りの地理に詳しい彼、陣十郎はどこへ行ったものか露路か小路へ逃げ込んだらしい、既に姿は見えなかった。
 が、この頃から物音に驚き、お長屋の窓や潜門《くぐり》が開き、人々が顔を出し、
「どうしたのだ?」
「火事か?」
「盗賊か?」
 などと、口々に罵った。
 要介はそこで、大音に叫んだ。
「悪漢、鴫澤家に禍《わざわい》いたし、この界隈に隠れ居ります。お出合い下されお探し下され」
「行け」「探せ」と人々は叫び、追っ取り刀で走り出し
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