「その片輪武士こそ陣十郎でござる」
「ナニ、陣十郎? さようでござったか。……してそ奴、陣十郎めは?」
「お妻と申す女を奪い、たった今しがた逃げましてござる」
「追いましょう、逃がしてはならぬ」
「御意で! 追いましょう、遠くは行くまい!」
多四郎と要介とは走り出した。
乞食どもはいつか逃げ散っていた。
お妻を引っかかえた陣十郎は、この頃耕地を走っていた。
後から追って来る足音がする。
(どこかへ隠れて……隠れなければならない)
見れば一軒の農家があって、燈火の光が洩れて見えた。
(よしあそこへかくまって[#「かくまって」に傍点]貰おう)
陣十郎はそっちへ走った。
雨戸が一枚あいていて、人の姿がそこにぼんやりと見えた。
「狼藉者に襲われましたもの、しばらくおかくまい[#「おかくまい」に傍点]下されい」
「よろしゅござる」とその人は云い、一方へ躰を開いた。
本懐遂ぐ
で、燈火が雨戸の間から、ほのかながらも庭先へ射した。
「やア、汝は水品《みずしな》陣十郎オーッ」
「誰だ? やア鴫澤主水《しぎさわもんど》かアーッ」
縁に佇んでいた者は、鴫澤主水その人であった。
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