物語り、巡り逢えた幸運を感謝しながら、井上嘉門の領地を遁れ、まず福島の宿《しゅく》へ来た。
 そこで陣十郎の消息を尋ねた。
 名古屋の城下へ行ったらしかった。
 で、兄妹は連れ立って、名古屋へ来たのであって、この地へ来ると主水と澄江とは、とりあえず旅籠《はたご》に逗留して、陣十郎の行方《ゆくえ》を尋ねた。
 が、城下はなかなかに広く、行方を知ることが出来なかった。
 それにこれまでの艱難辛苦で、主水の躰も澄江の躰も、疲労困憊を尽くしていた。
 静養しなければならなかった。
 それに旅用の金子なども、追々少なくなって来たので、城下の旅籠を引払い、農家の離家を借り受けて、そこへ移って自炊をし、敵《かたき》の行方を尋ねると共に、身体をいたわることにした。
 鳴きしきる虫の音に時々まじって、木葉の落ちるしめやかな音が、燈火の暗い古びた部屋へ、秋の寂しさを伝えて来た。
「お兄様ご気分はいかがですか?」
 心配そうに澄江は訊いた。
「うむ、どうもよくないよ」
 主水はこの頃病気なのであった。
 と云ってもこれといって、心臓とか肺臓とか、そういうものの病気ではなく、気鬱の病気にかかっているのであった
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