うではあるが、分解も何も差し許さず、講釈も何も超越して、序破急を一時に行なうと云おうか、天地人三才を同時にやると云おうか、疾風迅雷無二無三、敵ながら天晴《あっぱ》れと褒めたくなるほどの、真に神妙な早業で、しかも充分のネバリをもって、石火の如くに行なわれては、ほとんど防ぐに術が無い」
「はあ」と浪之助は溜息をした。
「恐ろしい業でござりまするな」
「恐ろしい業じゃ、恐ろしい悪剣じゃ。……爾来拙者苦心に苦心し、あの悪剣を破ろうものと、考案工夫をいたしおるが……」
「考案おつきになりませぬか?」
「彼のあの時の太刀さばきが、いまだに眼先にチラツイていて、退きませぬよ、消えませぬよ」
「はあ」とまたも浪之助は、溜息せざるを得なかった。
それにしても昨夜お茶の水で、陣十郎に脅迫された時、反抗しないでよいことをした、変に反抗でもしようものなら、逆ノ車でズンと一刀に、切り仆されてしまったことだろう。
浪之助にはそう思われた。
二人は盃を重ねて行った。
いつか夕暮となっていて、庭の若竹の葉末辺りに、螢の光が淡く燈《とも》されていた。
6
酒に意外に時を費し、二人が屋敷から立ち出でたのは、相
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