えば身が震えるのであったが、悩乱状態の陣十郎には、やはりこの事も冷静な気持で、回想することなど出来なかった。
(こんな所で死んではたまらない! 早く人里へ! 早く福島へ!)
このことばかりを思い詰め、ノタウチながら呻き声を、先刻《さっき》から上げているのであった。
もう林蔵にとっても猪之松にとっても、呻き声など問題ではなくなっていた。
次第に迫る呼吸《いき》をととのえ、一気に雌雄を決しようと、刻足《きざみあし》をしてジリジリと[#「ジリジリと」は底本では「ヂリヂリと」]進んだ。
しかし又もこの折柄、意外の障害が湧き起こった。
雑木林の間から、数本のたいまつ[#「たいまつ」に傍点]の光が射し、四挺の駕籠を取巻いて、十数人の人々が、忽然現われて来たことであった。
2
井上嘉門の一団であったが、四梃の駕籠に乗っている者は、嘉門と逸見《へんみ》多四郎と、お妻とそうして東馬とであった。
「や、これは逸見先生で」
猪之松は思わず叫ぶように云って、岩を廻って数間走った。逃げたというのでは決してなく、自分の剣道の師匠であり、日頃から無用の腕立てや、殺生を厳しく戒《いまし》められている、
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