の陰に一人の武士が仆れてい、その武士から呻き声は来るのであった。
蒼い月光に照らされて、乱れた髪、はだかった衣裳、傷付いた手足のその武士が、水品《みずしな》陣十郎だということが見てとられた。
嘉門の領地の動乱から、命からがら遁れ出て、ようやくここまで歩いて来たところ、手足の負傷、心の疲労から、昏倒してしまった彼であった。
岩のむこうで林蔵と猪之松とが、刀を交し戦っているので、目つかっては一大事、声を立てては不可《いけ》ないと思いながら、つい呻き声を上げる彼でもあった。
嘉門の領地から遁れ出たものは、相当|夥《おびただ》しい数と見え、この一角から遥か離れた、巣山《すやま》や明山《あきやま》の中腹を、福島の方へ行くらしい、たいまつ[#「たいまつ」に傍点]の火が点々と見えた。
(どうして林蔵と猪之松とが、こんな所で斬り合っているのか?)
勿論陣十郎には合点いかなかったが、そういうことを突詰めて考え込むほど、彼の気持は冷静でなく、彼の躰は健康でなかった。
(それにしても井上嘉門の領地での、不思議な怪奇な事件の起伏! 何と云ったらいいだろう?)
悪党の彼ではあったけれど、このことを思
前へ
次へ
全343ページ中316ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング