」と呻く人間の声が、どこからともなく聞こえてきた。

恩讐集合


(はてな?)と林蔵は不審を打った。
(二人の他に人はいないと思ったのに、人の呻き声が聞こえるとは)
 こう注意が外れたので、躰の構えも自ずと崩れた。
 そこを狙って猪之松が、疾風迅雷、胴へ斬り込んだ。
「どっこい!」と喚くと林蔵は、一髪の間に飛退いて、姿勢を整え構えを正した。
 もう寸分の隙もない。
 二人は互いに呼吸を計り、その間隔《あいだ》を一間とへだて、睨み合って動かなかった。
 と、又も呻き声が聞こえた。
(おや?)と不審を打ったのは、今度は高萩の猪之松で、これも注意が外れたために、自ずと構えに隙が出来た。
(得たり!)とばかり得意の諸手突で、林蔵は征矢《そや》のように突進した。
 はじめて鏘然と太刀音がしたが、これは猪之松が林蔵の刀を、左に払って右へ反《かわ》したからで、太刀音のした次の瞬間には、二人の位置が少し移ったばかりで、構えは依然として中段と中段、もう静まり返っていた。
 それにしても呻き声はどこから来るのであろう?
 二人から数間離れた位置に、薮と灌木とに覆われて、一個の大岩がころがっていたが、そ
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