、彼らの騒動は静まった。
「さあさあ入って見るがいい。家の中へ入って見るがいい」
 こう云って老人は澄江を連れて、岩窟の中へ入って行った。
 入って真っ先に驚いたのは、何とも云われない悪臭であった。
 不浄の匂い、獣皮の匂い、腐肉の匂い、襤褸《ぼろ》の匂い――、いろいろの悪臭が集まって、一つになった得もいわれない悪臭、それがムッと鼻へ来て、澄江は嘔吐を催そうとした。
 岩窟の中は寒かった。
 凍《こご》えそうなほどにも寒かった。
 暗く、低く、狭くもあった。
 ところどころに火が燃えていた。
 住人が焚火をしているのであった。その周囲に集まったり、岩壁の裾に寝たりして、意外にたくさんの人間がいた。
 この時二三人の者が嗄《しわが》れた声で、鼻歌をうたうのが聞こえてきた。
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秩父の郡小川村
逸見様庭の桧の根
むかしはあったということじゃ
いまは変わって千の馬
五百の馬の馬飼の
木曾の馬主山主の
山の奥所も遥かなる
秣の山や底なしの
川の中地の岩窟の
御厨子《おずし》[#ルビの「おずし」は底本では「おづし」]に籠りあるという
移り変わるがならわしじゃ
命はあれど形はな
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