ない。
 澄江は冷然とし寂然としていた。
 嘉門はポンポンと手を拍った。
 と、次の間に控えていた、侍女が襖をソロリと開けた。
「権九郎に云っておくれ、送りの女が一人出来た。赤い提燈の用意をしなと」
 侍女は頷いて襖をしめた。

「あれ――ッ」という源女の声が、要介と浪之助とを驚かせたのは、それから間もなくのことであった。
 三人はこの時嘉門の主屋の、構えの外を巡りながら、なお逍遥《さまよ》っていたのであった。
「行きます、おお赤い提燈が!」
 指さしながら源女が叫んだ。
 極度の恐怖がその声にあった。
「あそこへあそこへ人を送る火が! 地獄へ、ねえ、生地獄へ! ……妾《わたし》のやられた生地獄へ! ……おおおお誰か今夜もやられる! ……可哀そうに可哀そうに! ……そうです妾も赤い提燈に、あんなように道を照らされ、馬へ、裸馬へくくりつけられ、そこへやられたのでございます!」


「追おう!」
 要介が断乎として云った。
「送られる人間を取り返そう!」
「やりましょう!」と浪之助も云った。
 夜の暗さをクッキリ抜いて、木立の繁みに隠見して、特に血のような赤い色の、小田原提燈が果実のよう
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