、ゾッとするような云いぶりなのであった。
「では私今日只今、どんなことをやろうと思っているかというに、澄江様とやらいうお前さまを、よう納得させた上で、私の心に従わせる! ……ということでござりますじゃ」
 云って嘉門は肩にかかっている、その長髪をユサリと振り、ベロリと垂れている象のような眼を、カッと見開いて澄江を見詰めた。
 澄江はハ――ッと息を飲んだ。
 その澄江はもう先刻《さっき》から、観念と覚悟とをしているのであった。
 思えば数奇の自分ではある! ……そう思われてならなかった。
 上尾街道で親の敵《かたき》と逢った。討って取ろうとしたところ、博労や博徒に誘拐《かどわか》された。そのあげく[#「あげく」に傍点]に馬飼の長の、人身御供に上げられようとした。と敵に助けられた。親の敵の陣十郎に! ……これだけでも何という、数奇的の事件であろう。しかもその上その親の敵に、親切丁寧にあつかわれ、同棲し旅へまで出た。夫婦ならぬ夫婦ぐらし! 数奇でなくて何であろう。
 追分宿のあの騒動!
 義兄《あに》であり恋人であり、許婚《いいなずけ》である主水様に、瞬間逢い瞬間別れた!
 数奇でなくて何で
前へ 次へ
全343ページ中270ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング