云い源女は右を指さしたり、左を指さしたりした。
土塀を乗り越えた二人の武士、それは主水と陣十郎とであった。鳥居峠から駕籠に乗り、薮原から山へかかり、この日この屋敷へ来た二人であった。
彼等二人の主たる目的は、井上嘉門に攫《さら》われた澄江を、至急に取り返すことにあった。
遅れてもしも澄江の躰に――その貞操に傷でもついたら、取り返しのつかぬことになる。
そこでこの屋敷へ着くや否や、負傷の躰も意に介せず、陣十郎は陣十郎で、その奪還の策を講じ、主水は主水で策を講じたが、これと云って妙案も浮かんで来ず、こうなっては仕方がない、嘉門の主屋へ忍び込み、力に訴えて取り返そうと、さてこそ揃って忍び込んだのであった。
忍び込んで見てこの主屋だけでも洵《まこと》に広大であることに、驚かざるを得なかった。
百年二百年経っているであろうと、そう思われるような巨木が矗々《すくすく》と、主屋の周囲に聳えていて、月の光を全く遮り、四辺《あたり》を真の闇にしてい、ほんの僅かの光の縞を、木間からこぼしているばかりであった。ところどころに石燈籠が道標《みちしるべ》のように立っていて、それがそれのある四辺だけ
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