思うところあって、
「有名なお屋敷拝見いたしたく、かつは某《それがし》事武術修行の、浪人の身にござりますれば、数日の間滞在いたし、お家来衆にお稽古つけたく……」
とこういう名目で泊まり込み、陣十郎と主水とは、
「旅の武士にござりまするが、同伴の者この付近にて、暴漢数名に襲われて負傷、願わくば数日滞在し、手あて[#「あて」に傍点]致したく存じます」
と、こういう口実の下に泊まったのであった。
陣十郎は猪之松の屋敷で、嘉門を充分知って居り、知って居るばかりか嘉門を襲った。――そういう事情があるによって、絶対に嘉門には逢えなかった。
顔を見られてさえ一大事である。
で、顔は怪我したように、繃帯で一面に包んでいた。
逸見多四郎が堂々と、
「拙者は武州小川の郷士、逸見多四郎と申す者、ご高名を知りお目にかかりたく、参上致しましてござります」
と、正面から宣《なの》って玄関へかかり、丁寧に主屋へ招じ入れられたのも、同じ日のことであり、お妻も東馬も招じ入れられた。
さて月のよい晩であった。
要介は源女と浪之助を連れてブラリと部屋から戸外へ出た。
この広大の嘉門の屋敷の、大体の様子を
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