である。清浄の生活など何で出来よう、肉体的の関係があったと、陣十郎は思うであろう――主水にはそんなように思われた。
 それが厭さに今日まで、主水は陣十郎へ明かさないのであった。
 とはいえいずれは明かさなければならない――そこで奈良井の旅籠屋でも、聞いて貰いたいことがある、云わなければならないことがあると、そういう意味のことを云ったのであった。
 似たような思いにとらえられているのが水品陣十郎その人であった。
 澄江と夫婦ならぬ夫婦ぐらし、それをして旅をさえつづけて来た。が、そう打ちあけて話したところで、肉体のまじわり[#「まじわり」に傍点]なかったと、何で主水が信じよう。暴力で思いを遂げたぐらいに、まず思うと思ってよい。
 打ち明けられぬ! 打ち明けられぬ!
 で、今だに打ち明けないのであったが、早晩は話してしまわねば、自分として心苦しい。そこでこれも奈良井の宿で、聞いて貰いたいことがある、話さねばならぬことがあると、主水に向かって云ったのであった。
 二人はしばらく黙っていた。
 互いに一句云ったばかりで、澄江について、お妻に関して、もう云おうとはしなかった。
 触れることを互いに
前へ 次へ
全343ページ中252ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング