の饗宴、声と音との、交響楽!
その間を縫って全くの狂乱――血を見て狂った悪鬼の本性、陣十郎が走っては切り、切っては走り、隠見出没、宿の八方を荒れ廻っていた。
今はお妻を探し出して切る! ――そういう境地からは抜け出していて、自分のために追分の宿が、恐怖の巷に落ち入っている、それが変質的彼の悪魔性を、恍惚感に導いていた。で男を切り女を切り馬を切り子供を切り、切れば切るほど宿が恐怖し、宿が混乱するその事が、面白くて面白くてならないのであった。
返り血を浴び顔も手足も、紅斑々《こうはんはん》[#「紅斑々」は底本では「紅班々」]として凄まじく、髻《もとどり》千切れて髪はザンバラ、そういう陣十郎が老人の一人を、群集の中で切り仆し、悲鳴を聞き捨て突き進み、向こうから群集を掻き分け掻き分け、こっちへ向かって来る若い女を見た。
「澄江エ――ッ」と思わず声をあげた。
それが澄江であるからであった。
「陣十様[#「陣十様」はママ]か!」と澄江は云ったが、あまりにも恐ろしい陣十郎の姿! それに自身陣十郎から遁れ、立ち去ろうとしている時だったので、陣十郎の横を反れ、群集の中へまぎれ込もうとした。
「汝
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