逃げるか! 忘恩の女郎《めろう》!」
 そういう澄江の態度によって、心中をも見抜いた陣十郎は、可愛さ余って憎さが百倍! この心理に勃然として襲われ、いっそ未練の緒を断ってしまえ! 殺してしまえと悪鬼の本性、今ぞ現わして何たる惨虐!
「くたばり居ろう!」と大上段に、刀を振り冠り追いかけたが、その間をへだてる群集の波! が、そいつを押し分け突っ切り、近寄るや横から、
「思い知れ――ッ」と切った。
 が、幸いその途端に、一頭の馬が走って来、二三の人を蹴り仆し、二人の間へ飛び込んだ。
「ワ――っ」という人々の叫び! 又二三人蹴り仆され、澄江も仆れる人のあおりで、ドッと地上に伏し転んだ。
 と「お女中あぶないあぶない!」と、云い云い抱いて起こしてくれたは、旅|装束《よそおい》をした武士であった。
「あ、あ、あなたは主水様ア――ッ」
「や、や、や、や、澄江であったか――ッ」


 抱き起こしてくれたその武士こそ、恋しい恋しい主水であった。
「主水様ア――ッ」と恥も見得もなく、群集に揉まれ揉まれながら、澄江は縋りつき抱きしめた。
「澄江! 澄江! おおおお澄江!」
 思わず流れる涙であった。
 涙
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