居ないのがかえって天の与え、今日の彼の様子から推せば、今後どんな目に逢わされるかも知れない。
(宿を出てともかくも外へ行こう)
仕度をして外へ出た。
(主水様は?)
こんな場合にも思った。
4
昼間見かけた例のお侍さんが、もし恋しい主水様なら、この宿のどこかに泊まっていよう、お逢いしたいものだお逢いしたいものだ!
思い詰めて歩く彼女の姿も、いつか混乱に捲かれてしまった。
岩屋で眼覚めた主水その人も、ほとんど澄江と同じであった。
傍らを見るとお妻が居ない。天の与えと喜んだ。義理あればこそ今日まで、一緒に起居をして来たのではあるが、希望《のぞみ》は別れることにあった。
そのお妻の姿が見えない。
(よしこの隙に立ち去ろう)
で、身仕度して外へ出た。
(鍵屋の二階で見かけた女、義妹澄江であろうも知れない。ともかくも行って探して見よう)
で、その方へ歩を運んだが、人と馬と火との混乱! その混乱に包まれて、全く姿が見えなくなった。
喚声、悲鳴、馬のいななき!
破壊する音、逃げまどう足音?
唸る嵐に渦巻き渦巻き、火の子を散らす火事の焔!
宿は人の波、馬の流れ、水の洗礼、死
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