を鼻にした獣が、敵愾心と攻撃的猛気、それを両眼に集めた時の、兇暴惨忍の眼のように、三白眼を怒らせたが、
「ふふん、主水! ……ふふん主水! ……澄江殿には主水のことを、このような旅の宿場の泊りにも、心に思うて居られたのか! ……ふふん、そうか、そうでござったか!」
ジロリと床の間の方へ眼をやった。
そこにあるものは大小であった。
既に幾人かの血を吸って、なお吸い足らぬ大小であった。
5
鍵屋から数町離れた地点に、岩屋という旅籠があり、その裏座敷の一室に、主水とお妻とが宿を取っていた。
主水は先刻《さっき》一軒の旅籠の、二階の欄干に佇んでいた、澄江に似ていた女のことを、心ひそかに思っていた。
もう夜はかなり更けていて、夕暮方の騒がしかった、宿の泊客の戯声や、婢女《おんな》や番頭や男衆などの声も、今は聞こえず静かとなり、泉水に落ちている小滝の音が、しのびやかに聞こえるばかりであり、時々峠を越して行く馬子の、
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※[#歌記号、1−3−28]追分油屋掛行燈に、浮気御免と書いちゃない
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などと、唄って行く声が聞こえるばかりであった。
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