唄の声、その間にまじって虚無僧の吹く、尺八の音などが聞こえてきた。
 と、旅人の群に雑り、旅仕度に深編笠の、若い武士が通って行った。
「あッ」と澄江は思わず云い、あわただしく障子をあけ、身を乗り出してその武士を見た。
 肩の格好や歩き方が、恋人|主水《もんど》に似ているからであった。
 なおよくよく見定《みきわ》めようとした時、一人の留女が走り出て、その武士の袖を引いた。と、その武士と肩を並べて、これも旅姿に編笠を冠った、年増女が歩いていたが、つと[#「つと」に傍点]その間へ分けて入り、留女を押しやって、その若い武士の片手を取り、いたわる[#「いたわる」に傍点]ような格好に、ズンズン先へ歩いて行った。
 が、その拍子に若い武士が、振り返って何気なく、澄江の立っている二階の方を見た。


 黄昏ではあり笠の中は暗く、武士の顔は不明であった。
(あんな女が附いている。主水様であるはずがない)
 そう澄江には思われた。
 主水様ともあるお方が、妾以外の女を連れて、こんな所へ暢気らしく、旅するはずがあるものか――そう思われたからである。
 とはいえどうにもその武士の姿が、主水に似ていたという
前へ 次へ
全343ページ中199ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング