を重ね、厚板《あついた》の帯を結んでいる。こんな賭場へ来ているのは、五郎蔵が、
「おいお浦、祝儀ははずむから、小屋へ来て、客人の、酒や茶の接待をしてくんな」と頼んだからであるが、その実は、五郎蔵としては、片時もこの女を、自分の側《そば》から放したくないからであった。
(賭場に神棚が祭ってあるのは変だな)
と、盆の背後、客人の間に雑じって立っていた頼母は、五郎蔵やお浦から眼を外し、五郎蔵の背後、天井に近く設けられてある、白木造りの棚を眺めた。紫の幕が張ってあり、燈明が灯してあった。
(何かの縁起には相違あるまいが)
ゆすり浪人
この間にも、五百両胴のチョボ一は、勝負をつづけて行った。胴親、五郎蔵の膝の前に積まれてある、二十五両包みが、封を切られたかと思うと、ザラザラと賭け金が、胴親のもとへ掻き寄せられもした。
一人ばからしいほど受け目に入っている客人があった。編笠を冠ったままの、みすぼらしい扮装《みなり》の浪人であったが、小判小粒とり雑《ま》ぜ、目紙《めがみ》の三へ張ったところ、それが二回まで受け、五両が百二十五両になった。それだのに賭金《かね》を引こうともせず、依然と
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