血曼陀羅紙帳武士
国枝史郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)朧《おぼ》ろに
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)伊東|頼母《たのも》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
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腰の物拝見
「お武家お待ち」
という声が聞こえたので、伊東|頼母《たのも》は足を止めた。ここは甲州街道の府中から、一里ほど離れた野原で、天保××年三月十六日の月が、朧《おぼ》ろに照らしていた。頼母は、江戸へ行くつもりで、街道筋を辿《たど》って来たのであったが、いつどこで道を間違えたものか、こんなところへ来てしまったのであった。声は林の中から来た。頼母はそっちへ眼をやった。林の中に、白い方形の物が釣ってあった。紙帳《しちょう》らしい。暗い林の中に、仄白く、紙帳が釣ってある様子は、巨大な炭壺の中に、豆腐でも置いたようであった。声は紙帳の中から来たようであった。
塚原卜伝が武者修行の際、山野に野宿する時、紙帳を釣って寝
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