たということなどを、頼母は聞いていたので、林に紙帳の釣ってあることについては、驚かなかったものの、突然、横柄な声で呼び止められたのには、驚きもし腹も立てた。それで黙っていた。すると、紙帳の裾が揺れ、すぐに一人の武士が、姿を現わした。武士の身長《たけ》が高いので、紙帳を背後《うしろ》にして立った形《すがた》は「中」という字に似ていた。
「お腰の物拝見出来ますまいかな」と、その武士は、頭巾で顔を包んだままで云った。
「黙らっしゃい」と頼母は、とうとう癇癪を破裂させて叫んだ。
「突然呼び止めるさえあるに、腰の物を見せろとは何んだ! 成らぬ!」
「そう仰せられずに、お見せくだされ。相当の物をお差しでござろう」
「黙れ! 無礼な奴、ははア、貴様、追い剥ぎだな。腰の物拝見などと申し、近寄り、懐中物を奪うつもりであろう。ぶった斬るぞ!」
「賊ではござらぬ。ちと必要あって腰の物拝見したいのじゃ。何をお差しかな。まさか天国《あまくに》はお差しではござるまいが」
「ナニ、天国? あッはッはッ、何を申す、馬鹿な。天国や天座《あまのざ》など、伝説中の人物、さような刀鍛冶など、存在したことござらぬ。鍛えた刀など
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