な小屋だな」
 と呟《つぶや》きながら、頼母は、改めて五郎蔵の賭場を眺めた。
 板囲いは、ひときわ大ぶりのもので、入り口には、二人の武士が、襷《たすき》をかけ、刀を引き付け、四斗樽に腰かけていたが、いうまでもなく賭場防ぎで、一人は、望月角右衛門であり、もう一人は、小林紋太郎であった。この二人は、あの夜、薪左衛門の屋敷で、ああいう目に逢い、恐怖のあまり、暇《いとま》も告げず、屋敷を逃げ出し、ここの五郎蔵の寄人《かかりゅうど》になったものらしい。同じ屋敷に泊まったものの、顔を合わせたことがなかったので、頼母は、二人を知らず、そこで目礼もしないで、入り口をくぐった。
 賭場は、今が勝負の最中らしく、明神へ参詣帰りの客や、土地の者が、数十人集まってい、盆を囲繞《とりま》いて、立ったり坐ったりしていた。世話をする中盆が、声を涸《か》らして整理に努めているかと思うと、素裸体《すはだか》に下帯一つ、半紙を二つ折りにしたのを腰に挾んだ壺振りが、鉢巻をして、威勢のよいところを見せていた。正面の褥《しとね》の上にドッカリと坐り、銀造りの長脇差しを引き付け、盆を見ている男があったが、これが五郎蔵で、六十五歳
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