彼は三日前のあの夜、薪左衛門の屋敷で、ああいう事件に逢ったが、それから躄《いざ》り車を押して、栞共々、庭から屋内へ、薪左衛門を運び入れた。屋敷の中は大変であった。五人泊まっていたという浪人のうち、一人は斬り殺されてい、一人は片足を斬られてい、後の三人の姿は消えてなくなっていた。片足を斬られた浪人の語るところによれば、紙帳を釣って、その中にいた五味左門と宣《なの》る武士によって、この騒動が惹《ひ》き起こされたということであった。
 この事を聞くと、頼母は仰天し、娘の栞へ、そのような武士を泊めたかと訊いてみた。すると栞は、「五味左門と宣り、一人のお武家様が、宿を乞いましたので、早速お泊めいたしましたが、お寝《やす》みになる時、紙帳を釣りましたかどうか、その辺のところは存じませぬ」と答えた。それで頼母は、どっちみち、紙帳の中から出て来て、自分を体あたり[#「あたり」に傍点]で気絶させた、武道の達人が、自分の父の仇の、五味左門であるということを知ったが、そんな事件が起こったため、その処置を、栞と一緒に付けることになり、三日を費やし、三日目の今日、ようやく府中へ来たのであった。
「なかなか立派
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