片足を股から斬り取られ、四つ這いになって、廊下を這い廻っている武士の口から迸《ほとばし》った。紙帳の中はひっそりとしていた。
こういう間も、キリキリという、轍《わだち》でも軋るような音は、屋敷の周囲《まわり》を巡って、中庭の方へ移って行った。
(何んの音だろう?)と、四人の浪人が不審を打ったように、その音に不審を打ったのは、中庭に近い部屋に寝ていた、伊東|頼母《たのも》であった。
頼母は、この屋敷へ来るや、まず朝飯のご馳走になった。給仕をしてくれた娘の口から聞いたことは、この屋敷が、飯塚薪左衛門という郷士の屋敷であることや、娘は、その薪左衛門の一人娘で、栞《しおり》という名だということや、今、この屋敷には、頼母の他に五人の浪人が泊まっているということや、父、薪左衛門は、都合があって、どなたにもお眼にかかれないが、皆様がお泊まりくだされたことを、大変喜んでいるということなどであった。
「どうぞ、幾日でもご逗留くださりませ」と栞は附け加えた。
頼母は、忝けなく礼を云ったが、こんな不思議な厚遇を受けたことは、復讐の旅へ出て一年になるが、かつて一度もなかったと思った。
彼は下総《しも
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