白光が、二人の間を裁断《たちき》った。
 地に置いてあった抜き身を取り上げ、左門が二人の間へ突き出したのであった。
「待て! ……さりながら、純情と純情! ……ハーッ」
 と、太い息をした。
 五郎蔵の贔屓《ひいき》を受けていながら、五郎蔵を裏切り天国の剣を持ち出し、頼母に渡そうとしたこと、邪まの所業《しわざ》には相違なかったが、生命をかけての頼母への執着ぶりから云えば、お浦の想い、純情といわずして何んだろう。
 左門のような人間をして、腹の底から笑わせた栞の無邪気さ! その栞の頼母への恋が、純情であることはいうまでもなかった。
 その純情と純情とが、狭い紙帳の中で、今や噛み合おうとしているのであった。
(俺には扱い兼ねる)
 左門は太い息をしたのである。
「栞殿」
 と、やがて左門は云った。
「拙者、先ほど、阿婆擦《あばず》れた女などが、そなたの恋人へ附きまとうやもしれずと申しましたな。……お浦こそその女子! ……しかし、そなたの、頼母殿を想う念力強ければ、お浦など、折伏《しゃくぶく》すること出来ましょう! ……弱ければ、折伏されるまでよ! ……お浦!」
 と、お浦を、不愍《ふびん》そうに見詰め、
「そちの頼母殿への執着、浅間しいともいえれば不愍ともいえる! ……しかし思え! そちの命は助からぬやもしれぬ。死に際を潔うせよ! ……栞殿へ恋を譲れ! ……そこまでに強い想い、譲るは辛いであろうが、譲れば、かえってそちの煩悩、まず第一に救われるであろうぞ! ……栞殿も救われ、頼母殿ものう。……栞殿は無邪気な処女《おぼこ》、頼母殿を、荒《すさ》んだ仇し女などに取られるより、まだしも栞殿に譲った方がのう。……さりながら、女の世界での出来事は、男の世界からはうかがいしること出来ぬわい! そちたち委《まか》せ! ……おさらばじゃ!」
 刀を引くと立ち上がり、紙帳の側面《かべ》へ身を寄せたが、
「二人ながら安心いたせ! 二人の希望を叶え、拙者、五郎蔵はじめ、五郎蔵の乾児どもを、斬って斬って斬りまくり、頼母殿の命はきっと救う! ……注意《こころ》いたせ!」
 と、左門は訓《いまし》めるように云った。
「二人ながら紙帳を出るな! ……紙帳こそは拙者の家、わが城砦《とりで》、この中にそちたちいる限りは、拙者身をもって護ってとらせる! 出たが最後、拙者|関係《かかわ》らぬぞ!」
 幾多の
前へ 次へ
全98ページ中84ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング