》り、
「逃げれば斬るぞ! 坐れ!」
 と大喝し、二人の乾児が、ベッタリと坐ったのを睨み、
「脇差しを捨てろ!」
 二人の乾児は脇差しを投げ出した。
 左門へ立ち向かっては子供のようにあしらわれる頼母ではあったが、本来が勝《すぐ》れた腕前、博徒や用心棒に対しては段違いに強く、瞬間《またたくま》に四人を斃し、二人を追い、二人を生擒《とりこ》にしてしまったのである。
 頼母はホッとし、大息を吐き、しばらくは茫然としていた。
(恩こそあれ、怨みのない五郎蔵殿の乾児衆を殺したとは……)
 武蔵屋で、左門と出会った時、五郎蔵たちに助けられなかったならば、自分は手もなく左門に討ち取られたことであろう! 五郎蔵殿とその乾児衆とは、自分にとっては恩人に相違ない! それを、時の機勢《はずみ》とはいえ、先方から仕掛けた刃傷沙汰とはいえ、その恩人の乾児を四人殺したとは……。
(殺生な!)その優しい心から、頼母は暗然とせざるを得なかった。
 と、その時、頭上から、
「頼母様アーッ」
 と叫ぶ、女の声が聞こえて来た。頼母はハッとし、気が附き、声の来た方を振り仰いだ。半分《なかば》死にはいり、ほとんど人心地のなかったお浦が、今の乱闘騒ぎで、正気を取り戻したらしく、藍のように蒼い顔を、薄暗い梁の下に浮き出させ、血走った眼で、思慕に堪えないように、じっと頼母を見下ろしていたが、紫ばんだ唇を動かしたかと思うと、
「頼母様アーッ……あなた様のために……あなた様に差し上げようと持ち出しました天国の御剣《みつるぎ》を、残念や、髪川へ落としましてございます。……こればかりが心残り! ……死にまする、妾《わたし》は間もなく死にまする! ……いいえ何んの怨みましょうぞ! 想いを懸けましたあなた様のために、五郎蔵親分に嬲《なぶ》り殺しにされて死ぬこそ、妾のような女には分相応! ……本望! ……喜んで死にまする! 頼母様アーッ」
 荒縄の一端で釣り下げられている彼女であった。肩も胸も露出《あらわ》に、乳房のあたり咽喉のあたり焼き鏝《ごて》でも当てられたか、赤く爛《ただ》れ、皮膚《かわ》さえ剥《む》けている。深紅の紐でも結びつけたように、血が脛《はぎ》を伝わっている。
「頼母殿と仰せられるか、一思いにお殺しくだされい! お慈悲でござるぞーッ」と叫んだのは、縄の他の端に繋がれた、お浦と並び、釣り下げられている典膳であっ
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