た。
「おのれ五郎蔵、この怨み死んでも晴らすぞよ! ……汝の過去の罪悪、わけても道了塚での無慈悲の所業《しわざ》! それを俺に剖《あば》かれるかと虞《おそ》れ、瞞《だま》し討ちから嬲り殺しにかけおったな! ……可哀そうなは伊丹東十郎! あいつの悲鳴、今も道了塚へ行かば、地の下から聞こえるであろうぞ、『秘密は剖かない、裏切りはしない、助けてくれーッ』と。……天国の剣を、汝が手に入れたも、この典膳が才覚したればこそじゃ。……その俺を嬲り殺し! おのれ五郎蔵オーッ」
ワングリと開けた暗い口から、焔《ほのお》の先のような舌を、ヒラヒラ出入りさせた。前歯が数本脱けている。引き抜かれたものらしい。爪を剥がされた足の指から、今も血がしたたってい、その指の周囲を、金蠅が飛び廻っている。
頼母はやにわに刀を揮うと、二人を釣っている縄を切った。
「お浦殿オーッ」と頼母は、地に落ちて来たお浦を宙で抱き止めると、ベタリと坐り、お浦の体を膝へ掻き上げた。「頼母、お助けつかまつるぞオーッ」
恩こそあれ怨みのないお浦であった。この身を恋してくれたこと、なるほど、五郎蔵からみれば、怒りに堪えない所業であったろうが、この身からすれば、尋常に恋されたまでである。憎むべき筋ではない。その恋ゆえに、天国の剣を持ち出してくれたという。感謝しなければならないではないか。その恋ゆえに、嬲り殺しにかけられたという。助けないでおられようか! 四辺を見れば、壁に戸板が立てかけられてあった。
「汝《おのれ》ら!」と頼母は、地べたに坐って顫《ふる》えている二人の乾児《こぶん》を睨みつけ、「戸板を持て! ……お浦殿とそのお武家様とを舁《か》き載せよ! ……そうして汝ら戸板を担《かつ》げ」
一団は納屋を出た。
(角右衛門どもの注進で、五郎蔵が乾児を率い、襲って来るやも知れぬ。何を措いても身を隠さなければ! ……では附近《ちかく》の林へ!)
「走れ! 向こうの林へ駈け込め!」
戸板の一団は、さっき、五味左門が身を没した同じ林の中へ駈け込んだ。
処女と殺人鬼
道了塚の林の中の紙帳の中で、栞が眼をさましたのは、これより少し以前《まえ》のことであった。彼女は、自分が蝶になって、春の野を舞いあそんでいる夢を見ていた。野の中に、一本《ひともと》の、木蓮の木があり、白絹細工のような花が、太陽《ひ》に向かって咲き揃っ
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