外の出来事から、新しい恋を得るようである。
が、それはそれとして、この日が暮れて夜になった時、花園の森の一所へ、一人の女が現われた。
闇の中の声
「秋安様の予言どおりに、妾《わたし》は小四郎様にあざむかれた」
さも後悔に堪えないように、声に出して女は呟いたが、他ならぬ娘の萩野であった。
今宵も忍んで来るがよいと、こういう約束があったので、萩野は恋心をたかぶらせながら、聚楽第《じゅらくだい》の付近にある、小四郎の住居《すまい》まで行ったところ、小四郎はどうしたものであろうか、けんもほろろの挨拶をして、萩野を追い返してしまったのである。
「野に在る花は野にあるがよい。其方《そなた》はやっぱり野にある花だ。しかるに私《わし》は聚楽の家臣、地下の者とは身分が違う。何もお前を嫌うのではないが、これまでの縁はこれまでとして、其方は其方の昔にかえり、私は私の昔にかえろう。で、今後は私も行かぬ。其方も私を訪ねないがよい」
こういう露骨の言葉をさえ、萩野は小四郎から貰ったのである。
ことの意外に驚きながらも、どうすることも出来なかった。しかしどうしてそうもにわかに、小四郎の心が変わった
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