てやろう!」
で、ツツ――ッと寄り添った。
主人あやうしと見て取ったものか、二人の武士が左右から、挿むようにして切り込んで来た。
と、鏘然たる太刀の音!
つづいて森の木洩陽を縫って、宙に閃めくものがあった。払い上げられた太刀である。
すなわちは北畠秋安が、一人の武士の太刀を払い、そうして直ぐにもう一人の太刀を、宙へ刎ね上げてしまったのである。
と、逃げ出す足音がした。
主人の小四郎を丸く包み、五人の武士が太刀を拾わず、森から外へ逃げ出したのである。
「待て!」と秋安は声をかけたが、苦笑いをすると突立った。
「追い詰めて殺すにも及ぶまい。祟りのほどがうるさいからなあ」
で、抜いた太刀を鞘へ納め、パチンと鍔音を小高く立てたが、改めて娘の様子を見た。
木洩陽を浴びて坐っている、廻国風の娘の顔の、何と美しく気高いことよ!
そうしてこれほどの闘いにも、大して恐れはしなかったと見えて、別に体を顫わせてもいない。
とは云え勿論顔の色は、蒼味を加えてはいるのである。
「ほう」
秋安が声を上げたのは、その美しさと気高さとに、心を驚かせたからである。
恋を失った秋安は、どうやら意
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