にお入りなさりませ。ご自身に寝部屋へ参られませ」
すぐにカチカチと音がした。どうやら錠でもあけるらしい。
「有難い有難い礼を云うぞ。そうしたら俺はお紅を連れ出し、遠く他国へ行くことにしよう。そうしてそこで一緒に住む」
やがてギーという音がした。
と、扉が一方へあいて、先刻《さっき》方お紅の部屋に在って、お紅に因果を含めていた、老婆が顔をつき出した。すなわち四塚の姥である。
「お入りなされ」
「もう占《し》めたぞ!」
だがその時どうしたのであろうか、四塚の姥は、
「あッ」と云ったが、ビ――ンと扉をとじてしまった。
主殿《おもや》とつながれている廻廊を、一つの人影が辷るように、こっちに近寄って来たからである。
「小四郎!」
「おッ、ご宿老様!」
「不忠者!」
か――ッと一太刀!
悲鳴が起こって骸が斃れた。
幸蔵主《こうぞうす》が樓上で耳にしたのは、この小四郎の悲鳴なのであった。
「四塚の姥! 扉をあけろ。……うむ、開けたか、顔を出せ。……お紅という娘が居るはずだ。丁寧にあつかって連れて参れ」
「かしこまりましてござります」
密房の扉があけられている。
砂金色の燈火《とも
前へ
次へ
全79ページ中70ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング