うとしている。
助けた女は?
それと見てとって秋安が、勃然と怒りを発したのは、まさに当然ということが出来よう。
「方々!」と声をかけながら、武士の間へ割って行ったが、
「お見受けすればいずれも武士、しかも立派なご身分らしい。しかるに何ぞや若い娘を捉えて、乱暴狼藉をなされるとは! 体面にお恥じなさるがよろしい!」
叱咤の声をひびかせた。
凜々しい態度と鋭い声に、気を呑まれたらしい五人の武士は、捉えていた娘を手放すと、一斉に背後《うしろ》へ飛び退いたが、見れば相手は一人であった。それに年なども若いらしい。で、顔を見合わせたが、中の一人が進み出た。
「これ貴様は何者か! 我々の姿が眼に付かぬか! 銀の元結、金繍の羽織、聚楽風《じゅらくふう》だぞ、聚楽風だぞ!」
云われて秋安は眼を止めて見た。
いかにもそれは聚楽風であった。
すなわち関白|秀次《ひでつぐ》に仕える、聚楽第の若い武士の、一風変わった派手やかな、豪奢を極めた風俗であった。
そうしてその事が秋安の心を、一層の憤りに導いた。
「ははあ左様か、ご貴殿方は、関白殿下にお仕えする、聚楽第のお歴々でござるか。ではなおさらの
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