ことでござる。乱暴狼藉はおやめなされ! それ関白と申す者は、百官を總《す》べ、万機を行ない、天下を関《はか》り白《もう》する者、太政大臣《だじょうだいじん》の上に坐し、一ノ上とも、一ノ人とも、一ノ所とも申し上ぐる御身分、百|姓《せい》の模範たるべきお方であるはずだ。従ってそれにお仕えする、諸家臣方におかれても、等しく他人《ひと》の模範として、事を振舞いなさるが当然。しかるに何ぞや娘を捉え、淫がましい所業《しわざ》をなさる! いよいよお恥じなさるがよい」
 ウンとばかりに遣り込めた。
 こう云われたら[#「云われたら」は底本では「云はれたら」]一言もなく、引き下るかと思ったところ、事は案外に反対となった。五人刀を抜きつらね、秋安へ切ってかかったのである。
「関白の説明汝に聞こうか! 地下侍《じげざむらい》の分際で、痴《おこ》がましいことは云わぬがよい。ここに居られるのは殿下の寵臣[#「寵臣」は底本では「籠臣」]、不破小四郎行春様だ。廻国風のその娘に、用あればこそ手をかけたのだ! じゃま立てするからにはようしゃはしない、汝《おのれ》犬のように殺してくれよう!」
 一人が飜然と飛び込んで来た
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