。で、誰何したというものだ。すると一人が切りかかって来た。で、一刀に切り仆したところ、後の者は一散に逃げてしまった」
死骸へ改めて眼をやったが
「その風俗で大概は知れる。困った奴らがやって来たものだ。何の目的かは知らないが。……其方《そち》も用心をするがよい」
花木の間だをくぐるようにして、秋元は静かに歩み去ったが、月光を浴びた背後《うしろ》姿が、ひどく心配のある人のようであった。
と、その時人の影が、忍びやかに秋安へ近づいて来た。
たしなみの懐刀を握りしめたところの、廻国風の娘であった。
「秋安様」と寄り添うようにした。
「ああここに切られた人が!」
「聚楽《じゅらく》の奴原《やつばら》にござりますよ」
秋安は死骸を指さしたが、
「貴方《あなた》を手籠めにいたそうとした、彼らの一人でござりますよ」
お紅には言葉が出なかった。俯向いて死骸を見下ろしている。
「都にあってもこの有様でござる。一度地方へ出られようものなら、もっと恐ろしい数々のことが、降りかかって来ることでござりましょう。お紅どのここへお止まりなされ。我々がご保護いたしましょう」
無意識に秋安は手を延ばした。
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