。で、誰何したというものだ。すると一人が切りかかって来た。で、一刀に切り仆したところ、後の者は一散に逃げてしまった」
 死骸へ改めて眼をやったが
「その風俗で大概は知れる。困った奴らがやって来たものだ。何の目的かは知らないが。……其方《そち》も用心をするがよい」
 花木の間だをくぐるようにして、秋元は静かに歩み去ったが、月光を浴びた背後《うしろ》姿が、ひどく心配のある人のようであった。
 と、その時人の影が、忍びやかに秋安へ近づいて来た。
 たしなみの懐刀を握りしめたところの、廻国風の娘であった。
「秋安様」と寄り添うようにした。
「ああここに切られた人が!」
「聚楽《じゅらく》の奴原《やつばら》にござりますよ」
 秋安は死骸を指さしたが、
「貴方《あなた》を手籠めにいたそうとした、彼らの一人でござりますよ」
 お紅には言葉が出なかった。俯向いて死骸を見下ろしている。
「都にあってもこの有様でござる。一度地方へ出られようものなら、もっと恐ろしい数々のことが、降りかかって来ることでござりましょう。お紅どのここへお止まりなされ。我々がご保護いたしましょう」
 無意識に秋安は手を延ばした。

前へ 次へ
全79ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング