っそ両親の菩提のために、諸国の神社仏閣を、巡拝いたそうと存じまして、京都へ参ったのでございました。でもともかくも秀次公に仕える聚楽第の若いお侍に、手籠めに合いなどいたしましたら、逝き父母に対しては申訳なく、妾自身に対しましては、恥しい次第にございます。……ほんにあの時お助け下され、何とお礼を申してよいやら、有難い次第にござります。……それにこのようにご親切に、お屋敷へさえお連れ下され、手厚い介抱を受けまして、いよいよ忝《かたじ》けなく存じます」
 その娘の名はお紅《べに》と云い、北国の名家、佐々隆行、その一族の姫なのであった。その父の名は時明《ときあきら》、その母の名はお園の方、一時はときめいた[#「ときめいた」に傍点]身分なのであった。
 それであればこそお紅という娘も、貧しい貧しい廻国風の姿に、身を※[#「にんべん+肖」、第4水準2−1−52]してはいるけれど、臈たけいまでに[#「臈たけいまでに」はママ]品位があり、容貌が打ち上って見えるのであった。
 素性を聞いたために秋安が、いよいよお紅という娘に対して、いわれぬ愛着と尊敬とを、感じたことは言うまでもない。
 で、幾度も頷いたが
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