この二人は、経歴から目的から同一なのであろう! 二人の女の関係はどうなのであろう?
 お茶の水で主税を助けたあやめ[#「あやめ」に傍点]は、辻駕籠を雇って主税を乗せて彼の屋敷へまで送ってやった。
 でも彼女は心配だったので、見え隠れに駕籠の後をつけて、彼の屋敷の前まで来た。と五人の覆面武士が現われ、主税を手籠めにして担いで逃げた。
(一大事!)と彼女は思い、その一団の後を追った。が、この構内へ入り込んだ時には、その一団はどこへ行ったものか、姿がみえなくなっていた。
(どうあろうと主税様をお助けしなければ)
 そこで、あやめ[#「あやめ」に傍点]は主税を探しにかかった。
 その結果がこうなったのである。

   双生児の姉妹

「まあお前は妹!」
「お姉様《あねえさま》か!」
 あやめ[#「あやめ」に傍点]とそうしてお葉の口から、こういう声のほとばしったのは、それから間もなくのことであり、その次の瞬間には二人の女は、抱き合ったままで地に坐っていた。
 お高祖頭巾をかむった町女房風のあやめ[#「あやめ」に傍点]と、猿廻し姿のお葉とが、搦み合うようにして抱き合って、頬と頬とをピッタリ付けて、烈しい感情の昂奮から、忍び泣きの音を洩らしている姿は、美しくもあれば妖しくもあった。
 築山の裾に茂っているのは、満開の花をつけた連翹《れんぎょう》の叢《くさむら》で、黄色いその花は月光に化かされ、卯の花のように白く見えていたが、それが二人の女を蔽うように、背後《うしろ》の方から冠さっていた。
「お葉や! おおおおその姿は! ……猿廻しのその姿は! ……別れてから経った日数は十年! ……その間中わたしは雨につけ風につけ、一日としてお前のことを、思い出さなかったことはなかったのに! ……高麗郡《こまごおり》の高麗家と並び称され、関東での旧家と尊ばれている、荏原《えばら》郡の荏原屋敷の娘が、猿廻しにおちぶれたとは! ……話しておくれ、その後のことを! 話しておくれ、お前の身の上を!」
 妹お葉の背へ両手を廻し、それで抱きしめ抱きしめながら、喘ぐようにあやめ[#「あやめ」に傍点]は云うのであった。
「お姉様、あやめ[#「あやめ」に傍点]お姉様!」と、姉の胸の上へ顔を埋め、しゃくりあげながらお葉は云った。
「十年前に……お姉様が……不意に家出をなされてからというもの……わたしは、毎日、まアどん
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