をかかげて、階段を駆け上り姿を現わした。
その脳天を真上から、主税は一刀に斬りつけた。
わッという悲鳴を響かせながら、武士は階段からころがり落ちた。
「居たぞ!」
「二階だ!」
「用心して進め!」
声々が階下から聞こえてきた。
さまよう娘
この頃植木師の一隊が、植木車を数台囲み、荏原屋敷の土塀の外側を、山の手の方へ進んでいた。車には植木が一本もなかった。
どこかのお屋敷へ植木を植えて、車をすっかり空にして、自分たちの本拠の秩父の山中へ、今帰って行く途中らしい。
二十人に近い植木師たちは、例によって袖無しに伊賀袴を穿き、山岡頭巾をかむった姿で、粛々として歩いていた。
その中に一人女がいた。意外にもそれはお八重であった。
やはり袖無しを着、伊賀袴を穿き、山岡頭巾をかむっている。
肩を落とし、首を垂れ、悄々《しおしお》として歩いて行く姿は、憐れに寂しく悲しそうであった。それにしてもどうして植木師などの中に、彼女、お八重はいるのであろう?
松浦頼母の一味によって、田安様お屋敷の構内で、お八重もあのとおり迫害されたが、でも辛うじて構内から遁れた。すると、そこに屯《たむろ》していたのが、十数人の植木師たちであった。
彼女は植木師たちに助けを乞うた。植木師たちは承知して、彼女に彼らの衣裳を着せ、追って来た頼母の家来たちの眼を、巧みにくらませて隠してくれた。
それからというもの彼女はその姿で、植木師たちと一緒に住み、植木師たちと一緒に出歩き、恋人主税の行方を探し、今日までくらして来たのであった。
主税もお葉もその姉のあやめ[#「あやめ」に傍点]も、無事に田安邸から遁れ出たという、そういう消息は人伝てに聞いたが、どこに主税が居ることやら、それはいまだに解らなかった。
植木師たちの本拠は秩父にあったが、秩父から直接植木を運んで、諸家へ植え込みはしないのであった。
まず秩父から運んで来て、本門寺つづきの丘や谷に、その植木をとりこ[#「とりこ」に傍点]にして置き――そこが秩父の出店なのであるが――そこから次々に植木を運んで、諸家へ納めるようにしているのであった。ところがとりこ[#「とりこ」に傍点]にして置いたたくさんの植木が、今日ですっかり片付いてしまった。
そこで彼らは本拠の秩父へ、今夜帰って行くことにし、今歩いているのであった。……
(わたしに
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