音を立てた。どうやら固唾を飲んだらしい。
 私はその手を静かに放し、書斎を抜けて玄関へ出た。
「やっぱりいけない。この家は」
 私は門から外へ出た。
「彼女は一層悪くなった。……嬉しさに心を取り乱している。そいつが[#「そいつが」に傍点]移ってはたまらない」

 依然として下宿で暮らすことにした。
 その翌日のことであった。
 何気なく私は夕刊を見た。
「佐伯準一郎惨殺さる。自動車の中にて。……原因不明」
 こういう記事が書いてあった。
「少し事件は悪化したな」
 さすがに私は竦然とした。
「彼女の仕業《しわざ》ではあるまいか?」
 ふと[#「ふと」に傍点]私はこう思った。
「昨日の佐伯氏のあの言葉は、どうも私には疑わしい。あれだけ高価の白金を、ああ早速にくれるはずがない。一度はくれると云ったものの、考え直して惜しくなり、取り返しに行ったのではあるまいか?」
 私は理詰めに考えて見た。
「銀三十枚を取り返すため、佐伯氏が彼女を訪問する。彼女はそれを返すまいとする。必然的に衝突が起こる。それが嵩ずれば兇行となる。彼女の性質なら遣りかねない」
 翌日の新聞が心待たれた。
 だが翌日の新聞に
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