ら離れなかった。
「大金が彼女の懐中《ふところ》へ入った。そのため私は行くのではない。……だが確かめて見たいものだ」
 私は公園を横切った。町へ姿を現わした。それから電車道を突っ切った。
 こうして彼女の家の前へ立った。門を入り玄関へかかった。
「案内を乞うにも及ぶまい」――で私は上って行った。
 書斎の扉《ドア》が開いていた。
 大きく茫然と眼を見開き、――白昼に夢を見ているような、特殊な顔を窓の方へ向け、彼女が寝椅子に腰かけていた。
 私は書斎へ入って行った。彼女の横へ腰を掛けた。しばらくの間黙っていた。
 沈黙が部屋を占領した。
 黙っていることは出来なかった。私は厳粛に彼女へ訊いた。
「話しておくれ。ねどうぞ。信じていいのかね、あの人の言葉を? 私はあの人に逢ったのだよ」
 だが彼女は黙っていた。ただ弛そうに身を動かした。非常に疲労《つかれ》ているらしかった。
 私は厳粛にもう一度訊いた。
「あの高価な白金《プラチナ》は、お前の物になったんだね。それを信じていいのだね?」
 すると彼女は頷いた。それから私の手を取った。彼女の両手は熱かった。そうして劇しく顫えていた。彼女の咽喉が
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