銀三十枚
国枝史郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)意《つもり》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)革|商人《あきゅうど》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)まんざら[#「まんざら」に傍点]の男振り
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「おいおいマリア、どうしたものだ。そう嫌うにもあたるまい。まんざら[#「まんざら」に傍点]の男振りでもない意《つもり》だ。いう事を聞きな、いう事を聞きな」
 ユダはこう云って抱き介《かか》えようとした。
 猶太《ユダヤ》第一美貌の娼婦、マグダラのマリアは鼻で笑った。
「ふん、なんだい、金もない癖に。持っておいでよ、銀三十枚……」
「え、なんだって? 三十枚だって? そんなにお前は高いのか」
「胸をご覧、妾《あたし》の胸を」
 マリアはグイと襟を開けた。盛り上った二顆の乳が見えた。ユダはくらくら[#「くらくら」に傍点]と目が廻った。
「持っておいでよ、銀三十枚。……そのくらいの値打はあろうってものさ」
「マリア、忘れるなよ、その言葉を。……銀三十枚! よく解《わか》った」
 ユダは部屋を飛び出した。引
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