は、下手人のことは書いてなかった。
「では彼女ではないのかしら?」
 私は幾分ホッとした。
「彼女に平和があるように」
 それでも私は気になった。二三日新聞を注意して読んだ。原因も下手人も不明らしかった。それについては書いてなかった。間もなく新聞から記事が消えた。
「これを流行語で云う時は、事件は迷宮に入りにけりさ。……だが大変結構だ」
 これも決して皮肉ではなかった。もしも彼女が下手人なら、一緒に住んでいたこの私も、必然的に渦中に入れられ、現在の穏かな生活を、破壊されるに相違ない。それは私の望みでなかった。それにもう一つ何と云っても、彼女は私の妻であった。その女の身に不幸のあるのは、私としては苦しかった。
 事件は迷宮に入った方がよかった。
 穏かな日が流れて行った。
 だが十日とは続かなかった。次のような広告が新聞へ出た。
「銀三十枚の持主へ告げる。△△新聞社迄郵送せよ。報酬として一万円を与う」

22[#「22」は縦中横]

「これはおかしい」と私は云った。
「銀三十枚の持主といえば、彼女以外にはありそうもない。そいつを請求出来る者は、佐伯準一郎氏の他にはない。だが佐伯氏は殺され
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