いるらしかった。
「さあお前達は監視《みまも》っていろ。……ヨハネ、ペテロ、ヤコブは来い。俺と一緒に来るがいい」
こう云ってイエスは奥へ進んだ。
「俺は一人で祈りたい。お前達も帰って監視しろ」
ついに三人をさえ追い払った。
イエスはよろめき躓きながら、一人奥へ入って行った。
と、林が立っていた。楊、橄欖《かんらん》の林であった。イエスはその中へ入って行った。そこへは月光は射さなかった。禁慾行者の禅定のような、沈黙ばかりが巣食っていた。
突然イエスは自分の体を、大木の根元へ投げ出した。
「もし出来ることでございましたら、どうぞ私をお助け下さい! 父よ、あなたは万能です」
白痴《ばか》か、子供か、臆病者か、そんなような憐れな声を上げて、こうイエスはお祈りをした。
4
ユダは後を尾行《つけ》て来た。菩提樹の陰へ身を隠し、そこから様子をうかがった。
彼はすっかり満足した。彼は行なった自分の行為の、疾《やまし》くなかった事を知ることが出来た。
「彼奴《あいつ》はイエスだ、ただイエスだ。なんの彼奴が預言者《キリスト》なものか! 預言者《よげんしゃ》なら助けを乞うはずはない。例の
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