、小説書きだ。そこをきゃつが狙ったんだ。でたらめの話をしやがって、俺の好奇心をそそりゃアがって、そいつを俺に預けやがったんだ。古いペテンだ、古いとも。牢から出ると取りに来るやつよ。いい隠し所を目つけたって訳さ。本当の事だ、信用しろ。家捜ししなよ、俺の家を、きっとどこかにあるだろう。……そこは女のあさましさだ。眼がクラクラと眩んだんだ。うん、白金を手に入れるとな。すっかり変わってしまやアがった。……」
刑事はニヤニヤ笑っていた。公園を出ると町であった。右角に貸自動車《タクシ》の待合があった。
「おい、自動車《タクシ》」と刑事は呼んだ。
「へい」と運転手が走って来た。
「この男を載っけてくれ」
すぐ自動車が引き出された。私はその中へ押し込まれた。
「金は持ってる、大丈夫だ。中村へでも送り込んでやれ。遊廓で一晩遊ばせてやれ」
こう云うと刑事は愉快そうに笑った。ひどく人のいい笑い方であった。
ゴーッと自動車は動き出した。
彼女は彼女の生活をした。私は私の生活をした。家庭生活は破壊された。だが一緒には住んでいた。彼女はますます美しくなった。近付きがたいまでに美しくなった。そうして素晴
前へ
次へ
全81ページ中48ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング