」に傍点]あるね、云って見給え」
「袂《たもと》にあるんだ、蟇口がな。いくらあるか知るものか」
刑事は腕から手を放した。
「調べてやろう、出したまえ」
私は袂から蟇口を出した。
「それ五円だ。それ赤銭だ。それ十銭だ。それ五円だ。まだあるぜ、それ十円だ」
「よしよし」と刑事は頷いた。
「それだけありゃア結構じゃアないか。歩いた歩いた送ってやろう。どうも手数のかかる奴だ」
また腕をひっ[#「ひっ」に傍点]掴んだ。町の方へ引っ張って行った。私は変に愉快になった。で、のべつ[#「のべつ」に傍点]にまくし立てた。
「莫迦だなあ刑事君、あの女は詐欺師なんだ。白金三十枚を隠しているんだ、一枚や二枚は使ったろう。とても大きな白金なんだ。五十|匁《もんめ》ぐらいはあるだろう。たった一枚で三千円だ。それがみんな[#「みんな」に傍点]で三十枚あるんだ。佐伯の物だ、大詐欺師のな。最初に俺が借りたんだ。そいつをあいつが取っちゃったんだ。あっ痛え! そう引っ張るな! 嘘じゃアねえ、本当のことだ。大馬鹿野郎め、ふん掴まえてしまえ! 引っかかったんだよ、ペテンにな。捕縛されるのが解《わか》ってたんだ。俺は文士だ
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