16[#「16」は縦中横]
刑事はちょっと考えた。
「ふふん、こいつ狂人《きちがい》だな。……死にたければ勝手に死ぬがいい。だがここは俺の管轄だ。……他へ行ってぶら[#「ぶら」に傍点]下るがいい」
「妻君は自動車へ乗ってったよ。たった今だ。紳士とな」
「これは可笑《おか》しい」と刑事は云った。
「それじゃアあの[#「あの」に傍点]女を知ってるのか。俺の狙《つ》けてる淫売だが」
「あれが僕の妻君さ」
私は何かに駈り立てられた。畜生! こいつを吃驚《びっくり》させてやれ!
「君、あいつは詐欺師なんだ。あいつは白金《プラチナ》を詐欺したんだ。……勿論君も知ってるだろう、大詐欺師の佐伯準一郎ね、ありゃアあいつの片割れなんだ」
刑事はじっ[#「じっ」に傍点]と聞き澄ましていた。
「捕縛したまえ。手柄になるぜ」
刑事は急に緊張した。だがすぐに揶揄的になった。
「君のような狂人の妻君に、あんな別嬪がなるものか。まあまあいいから帰りたまえ」
たくましい手をグイと延ばし、私の腕をひっ[#「ひっ」に傍点]掴んだ。
「お前、金は持ってるのか?」
「うん」と私は頷いて見せた。
「いくら[#「いくら
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