った。イスカリオテのユダがそれを呪った。みんな別々の意味において。そうして今や私が呪う。憎むべき銀三十枚を!
人は信仰を奪われた時、一朝にして無神論者となる。
人は愛情を裏切られた時、一朝にして虚無思想家となる。
ユダの運命がそれであった。
私は私の思想として、ユダの無神論と虚無思想とを、自分の心に所有《も》っていた。
今や私は感情として、それを持たなければならなかった。
今、私はユダであった。
「助けて下さい! 助けて下さい!」
私は救いを求めるようになった。
しかし救いはどこにもなかった。
一つある!
基督《キリスト》だ!
キリストを売ったイスカリオテのユダは、売った後でキリストを求めただろう!
15[#「15」は縦中横]
これがいよいよ大詰かもしれない。
その夜私は公園にいた。彷徨《さまよ》ってそこ迄行ったのであった。詐欺師と邂逅《あ》ったロハ台へ、私は一人で腰をかけていた。生暖かい夜風、咽るような花の香、春蘭の咲く季節であった。噴水はすでに眠っていた。音楽堂には燈《ひ》がなかった。日曜の晩でないからであった。公園には誰もいなかった。ひっそりとし
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