女の産んだ最大の偉人、バプテズマのヨハネが礼を尽くし、二人の使者をよこした時、イエスはこういう返辞をした。
「瞽《めし》いた者は見ることが出来、跛《あしな》えた者は歩くことが出来、癩病《やめ》る者は潔まることが出来、聾《し》いた者は聞くことが出来、死んだ者は復活《よみが》えることが出来、貧者は福音を聞かされる。俺《わし》に来たる者は幸福《さいわい》である」と。
その時ユダはこう思った。
「これは途方もない傲慢な言葉だ。仮りにも預言者と称する者が、何ということを云うのだろう」
しかしユダはこんなことぐらいで、決してイエスを裏切ったのではなかった。
浅薄《あさはか》な感情のためではなく、もっと深刻な思想のために、彼はイエスを裏切ったのであった。
「神とは一体何だろう?」
ユダはここから発足した。
「宇宙の生物と無生物とを、創造し支配する唯一の物! 猶太教《ユダヤきょう》ではこう説いている。そうしてイエスもこう説いている。だが果たしてそうだろうか?」
3
ユダはその説とは反対であった。
「宇宙は[#「「宇宙は」は底本では「 宇宙は」]決して支配されてはいない。万象は勝手に動き廻
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